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前項ではかなり「見てきたようなこと」を書いて来ましたが、実際私はこのビジネスを体験しています。と言っても、約10年前、友達に懇願されてディストリビューター登録をし、何度かセミナーやミーティングに参加しただけなのですが、ある意味貴重な体験だったと思います。
掲示板へのハーバライフのディストリビューターの「これで借金完済」という書込みと、リンクしたURLを見て、すぐにマルチだと気づいたのも、多分実体験があったからだと思います。
古い体験ですが、私が見たこと、体験したことをまとめておきます。
まだインターネットが普及していない頃でしたから、当時のマルチの勧誘と言えば、友人・知人に片っ端から声をかける方法が主流でした。もちろん「マルチ商法です」とは言えませんから、色々な形で「きっかけ作り」をします。
私は友人のA君が仲間と主催する「異業種交流会」に招待されました。
私はちょうどフリーの編集者として独立したばかりで、人脈を求めていた時だったので、よろこんで参加しました。
そこにはかなり大勢の方が集まっていたのですが、A君からBさんという女性を紹介されました。そのBさんがA君のアップラインだったわけですが、その時は知るよしもありません。
翌週、彼女が主催する「メイクアップ講習会」に誘われました。当時の私はマルチ商法の存在なんてまったく知らなかったため、素直にお化粧の仕方を教えてもらえると思って、参加することにしました。
会場が新宿の高層ホテルのスイートルームだ、というのも魅力でした。
会場に行くと、まずはクレンジング、続いて洗顔とパックをされ、あっと言う間に知らない女性にフルメイクされてしまいました。
終わると、いつの間にかA君が現れて「すっごいキレイになったねー、見違えちゃったよー、すごい、すごい」と大げさに言います。そこにBさんもやってきて、「今日はね、こういう化粧品を使ったのよ」と、パッケージやカタログを出しはじめました。
ここではじめて「化粧品の販売が目的だ」ということに気づきました。その化粧品は初めて見る「ニュースキン」というメーカーのものでした。Bさんはニュースキンが天然の原料ばかりを使っていて、非常に肌に良いことを強調していました。私はアレルギー体質で、化粧品でかぶれたことも何度かあったのでそれが心配だったのですが、「それなら尚更お勧めするわ」とBさんは言います。「そんなに高い物じゃないから、一式買って使ってみたら?」と言いました。
当時はまだ「マツキヨ」で安い化粧品がいくらでも買える、というわけではなく、確かにニュースキンは「安い」と感じました。
ところが更に安い値段で買える方法がある、と言うのです。
それが「ディストリビューターになること」でした。ディストリビューターになれば更に安い「卸売価格で買えるようになり、他の人に定価で売ることもできるようになる」と言います。「自分が好きな物を人に紹介して、儲けられるなんて、こんなに良いことはないでしょ?」とBさんにたたみかけるように言われました。A君も「とりあえず自分で使ってみてよー、気に入らなかったら返品もできるしー」と言います。
しかし、この時マルチ商法のことをまったくわかっていなかった私は、素朴な疑問を抱きました。「私がA君やBさんから商品を買えばふたりは儲かるのに、なぜわざわざ卸売価格で直接メーカーから買わせようとするんだろう」ということです。
その疑問をふたりにぶつけていると、そこにCさんという別の女性が現れました。CさんはBさんのアップラインでした。当初の作戦では、Cさんに引き合わされるのはもっと後の予定だったのだと思うのですが、予想外にゴネた私をみかねてCさんが出てきたようです。
そこで私はCさんから、ニュースキンの「ネットワークビジネス」、つまりマルチ商法の仕組みを説明されました。そこからは、A君もBさんもCさんも、今までさんざん強調していた「商品の良さ」の話はすっかりしなくなり、「あなたにも夢があるでしょ?」「それを叶えたいでしょ?」「自分の好きな商品を人に紹介するだけで夢が叶うなんて、スゴイと思わない?」とまくし立てます。聞けば聞くほど怪しい感じが漂ってくるのですが、3人に囲まれて、とても簡単には立ち上がれない威圧感を感じました。
結局は「オレを助けると思って、頼むよー」というA君の泣き落としに負ける形で私はディストリビューター登録をしてまいました。
しばらく商品を使ってみましたが、特に悪いとも良いとも感じませんでした。まぁ、安いから自分では使い続けてもいいけれど、人に勧めるほどではない、というのが実感でした。毎日のようにA君、Bさん、Cさんの誰かから電話がかかってきて、使用感を聞かれたり、次の「メイクアップ講習会」に友達を連れてくるように言われましたが、もうひとつその気になれません。
適当にあしらって2週間ほど経った頃、A君が「ブルーダイヤモンドの話を聞けるチャンスだから絶対来て!!絶対ためになるよ」と言ってきました。「ブルーダイヤモンド」とはニュースキンのディストリビューターの中で最上位のピンレベルです。ニュースキンのディストリビューターはダウンラインの数や売上額に応じて「ゴールド」とか「ラピス」とか言ったランク付けがされます。これをピンレベルと言うのです。
半ば無理やり連れて行かれたのは300人以上入りそうな公会堂でした。そこが満席になっています。
照明が落とされると会場はシンと静まり返ります。当時流行っていた音楽が鳴り、舞台上がスポットライトで照らされると、そこにはひとりのおじさんが立っていました。このおじさんがブルーダイヤモンドです。会場は割れんばかりの大拍手です。最前列でおじさんの名前を連呼するお兄さんたちがいます。
「こんにちは」というおじさんの呼びかけに、会場中が「こんにちは」と異様なまでの明るさで答えます。「声が小さい、もう一度。こんにちはー」おじさんの言葉に、会場は更にハイテンションで「こんにちはー」と答えます。
たくさんのディストリビューターが壇上で「成功体験」を語り、ブルーダイヤモンドが自分の優雅な暮らしぶりを語りました。その言葉に心酔しきった様子の会場の人たちを見て、背筋が寒くなりました。
しかし、この時のブルーダイヤモンドの話の中には説得力を持った話もありました。一番納得したのは、「この1〜2年が勝負だ」ということです。
「人口には限りがあり、永遠にダウンラインが次々と続くわけがない。 ビジネスをやりそうな人に一通り声が掛かり終わったあとにこのビジネスを始めても、もう遅い」というわけです。「だから、今ビジネスをはじめないと成功できない」と、そのブルーダイヤモンドは言いました。そしてもう「飽和状態」になってしまったアムウェイを見限って、グループごと引き連れてニュースキンに鞍替えしてきた、という女性が紹介されました。
これが約10年前の話です。まだニュースキンが日本に入ってきて5年も経っていない頃でしたから、この話にはある意味納得したのです。
しかし、今でもニュースキンは会員勧誘活動をしています。このブルーダイヤモンドが今は壇上で何を語っているかは、ちょっと興味があるところです。
このセミナーで、私の心は完全に引いてしまいました。その後も何回か20人規模くらいのミーティングに行ったりしたのですが、先のセミナーのミニチュア版のようなもので、「成功」とか「夢」とか「アメリカで認められているすごいビジネス」だとか、言うことは決まっていました。「夢」だの「成功」だのと、言葉は飾っていても、結局は「金儲け」のことしか考えていないのです。
また、「アフター・ミーティング」と言って、大勢で喫茶店やファミリーレストランに行き、コーヒー一杯で何時間も粘って、アップラインのありがたいお話を聞く、というやり方も嫌でした。もともと「ツルむ」のが苦手だったこともあります。
借金をするほどではありませんでしたが、ミーティングでは会場費をワリカンで負担させられる上に、アップラインがまとめて買ってきた新製品などは半ば強制的に買わされます。ミーティングに出ると終電で帰れないことが多く、タクシー代も必要になるなど、お金もかかりますし寝不足にもなります。
結局耐えられなくなり、A君やBさんからの電話にも出ないようにして、半年くらいしてからやっと電話もかかってこなくなりました。
それから約10年経ちますが、A君やBさんが「成功して大金持ちになった」という話はまったく聞きません。
A君とはとてもウマが会う友人でした。ニュースキンさえなければ、今もA君との友情は続いていたかもしれません。
それっきり、もうマルチ商法と関わる事はないと思っていました。ニュースキンに関わったおかげで、だいだい他のマルチ商法のビジネスをやっているような会社の名前もわかりましたし、会員勧誘の口説き文句のパターンもわかりました。
インターネットをやるようになって、Yahooの掲示板の起業カテゴリや、宣伝ができる掲示板で彼らの誘い文句を見るたびに「やってる、やってるー」と冷やかし半分で見ていました。アンチマルチ商法のサイトも見かけるようになりました。インターネットによって、不特定多数を相手に勧誘をすることが可能になったわけですが、逆に前述のブラインド勧誘の問題や、スパムメール、暴力的な数のメーリングリストに勝手に登録されるなど、私が関わっていた頃にはなかった問題点が浮上してきています。
マルチ商法の企業の業績も年々悪化しているところが多いと聞きます。かつて私が話を聞いたブルーダイヤモンドの予言通り、すでにこの市場は飽和状態に入っているのではないでしょうか。
今からこのビジネスを始めても、優秀なダウンラインを獲得するのは簡単なことではないはずです。
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